昨日は札幌のアマチュアギター弾き、プロを目指す若手にとって最も大きなイベント
札幌市民芸術祭ギター音楽祭でした。
最初から最後まで聴かせていただきましたが、内容的にはとても良い会だったと思います。
独奏部門は7月に行われたオーディションを勝ち抜いた
小学生部門3名中学生部門2名一般部門7名(1名都合により棄権)による演奏です。
まず最初に小中学生部門から5名の演奏。
例年と比較して全体的にとてもレベルが高かったです。
まだ小学生ながらも整ったリズムとフレージング、音価、という点で先生や親御さんの指導がしっかりしている事が伺えた佐藤兄弟、
朱色の塔という難曲に挑戦しながらもしっかり、緩急のコントロールを意識した演奏を聴かせてくれた那須朱音さんの成長が
特に印象に残っています。
ギターの盛んな関東の洗練された早期教育の場の中で育ったトップクラスの子供たちのレベルにはまだ及びませんが
「札幌も捨てたものじゃない…!」と可能性と頼もしさを感じさせてくれました。
どうか彼らが今後も良い勉強を積み重ねながら、楽しくギターを弾き続けられます様に。
そして一般部門。
優れた演奏には札幌市民芸術祭大賞、奨励賞が贈呈されます。
トップバッターは山田想楽樹くん。曲は大聖堂/バリオス
昨年までは中学生部門でのエントリーでしたが今年は一般部門に挑戦し、見事合格。
粗削りなのですが、音楽に推進力があり「強く表現したい!訴えかけたい!」という姿勢が見えて
僕がとても好きなタイプの前向きな若者の演奏です。
年々指も回る様になってきて難曲にも手が出せるところまで来ています。
音程の跳躍、機能和声、フレージングを意識したテンポの動かし方、間、ブレスの取り方とデュナーミクが勉強出来れば
演奏に安定性が生まれるはずです。どうか今後彼がバランスの良い優れた勉強が出来ます様に。
小林花さん。曲は無伴奏チェロ組曲3番からブーレⅠ、Ⅱ、ジーグ/バッハ。
とても安定した演奏で終止安心して聴けました。
フレージングも角が無く丸く整っているので耳にも優しいです。
拍に踏み込む速度が常に緩く同じなので、舞曲の性格の弾き分け、
場面転換の変化の作り方という点では一本調子だった様に思います。
しかし、あの緊張する場面であれだけの安定感はとても素晴らしかったです。
袴田祐希さん。曲は2つのリディア調の歌/ダンジェロ
かなりの難曲です。僕にとっても難曲の部類です。しかも北海道初演と推測されます。
何でもお忙しくて先生のレッスンを受けていない状態でオーディションを通過、そして本番に臨んだとの事。
この難曲を1人でここまで仕上げられるアマチュアの方は全国的に見てもかなり少数だと思われます。
弦移動の激しい無窮動的なパターンが中々決まらなかったり、フレージングが不明瞭だったり
楽曲構造を消化しきれていない点も見えましたが、ここまで弾くのは大変な努力が必要だったと想像できます。
本当にクラシックギターが好きな人じゃないと辿り着けない領域の演奏でした。
来年も難曲への挑戦楽しみにしています。
久保夏実さん。プレリュード2番、5番/ヴィラ=ロボス
過去に奨励賞の受賞経験を持つ実力者です。
技術的な不安はほとんど感じさせませんし、難所も良くキマっていたと思います。
音色の立体感や、和声感、テンポの動かし方という点で、物足りなさを感じ、あまり南米モノの
雰囲気が出ていなかった様に思います。
奨励賞を取った際はかなり直線的なアップテンポの曲で直情的なインパクトが映えるタイプの曲でした。
今後の課題は、様々な時代様式の作品を通してクラシックのベーシックな作品に求められる表現方法を
バランス良く勉強していくことに尽きるのではないでしょうか。
今後の更なる成長を楽しみにしています。
稲葉有亮くん。最後の日の夜明けにop.33/クレンジャンス
4年連続の出演でもうすっかり常連です。
今年は例年以上に仕事がハードで、本番前日も体調不良に見舞われる等苦労した準備期間でした。
でもそれはあくまで彼の事情を知っている目線から見た甘い物言いです。
聴いてくださる聴衆の皆様にはそんなことは関係ありません。
まず暗譜が飛んでしまった事。いつも本番ギリギリまで曲を覚えない彼ですが、今年は結局暗譜出来ませんでした。
覚えの不安なページだけ譜面を見る事にしましたが、用意していないページで止まってしまいました。
また、瞬間瞬間で高いアピール力を備えた表現を見せてくれるのですが、小節の語尾や場面転換の繋ぎがどうも辿々しい。
弾き込み不足から音楽に集中しきれていない、物語で考えるなら、読み聞かせする読み手が、途中で読めない文字に遭遇して
詰まったり飛ばしてしまっているような印象です。
彼に必要なのは練習の計画性です。彼の明るい人柄、類まれな歌心(彼はとても歌が上手い)から人一倍優れた表現能力を
持ち合わせていますが、そこに頼り過ぎています。
ここ2,3年彼に言い続けていることですが、これを乗り越えなければ今の壁を超える事は困難です。
何とか彼の練習ペースを上手く軌道に乗せたまま1年過ごせるように、一緒に頑張っていきたいと思います。
坂本和奏さん。 夕べのハーモニー大幻想曲/メルツ
小学6年生の頃から、一般部門での出演を果たし続けて、過去に奨励賞を受賞しています。
全国規模のコンクールでも優勝、上位入賞を重ね、先月は東京で行われたGLC学生ギターコンクール高校生の部で優勝。
また小中高大全ての部門で最も優れた奏者に与えられるGLC賞も受賞。
過去のGLC賞受賞者は一線で活躍しているギタリストの名が多く連なっています。
つまり彼女はプロを目指す日本の若手ではトップクラスの能力を持っています。
演奏は本当に素晴らしく、ほぼ完璧な内容でした。決して解り易い派手さを持っているワケではないこのロマン派の難曲を
高いレベルのフレージングと拍節感で、正しく正統派のクラシカルな表現を聴かせてくれました。
今後、優れた教育を受け続け、今と変わらぬ大きな熱意を持ち続けることが出来たなら
必ずや素晴らしいギタリストになってくれると信じています。
倉田拓郎くん。曲はソナタよりスクリャービンのサラバンド、パスクィ―ニのトッカータ/ブローウェル
さて彼も今年職場の異動で残業も多く、中々練習時間の捻出が難しい中での準備期間でしたが
良く頑張って、この難曲をあそこまで仕上げました。
2楽章はほとんど無傷で、会場にいたほとんどの人が「美しい」と感じられる演奏だったと思います。
僕が教えたアプローチを借りものではなく、彼自身のものとして昇華した音楽でした。
3楽章は技術が追い付かず苦しい箇所が見受けられたり、押しの強さ、良い意味での攻撃的な尖った音色や
発音が不足していましたが、よく纏めました。
緊張からテンポがレッスンでも聴いた事がない速さになってしまいましたが、大崩れしなかったのは
丁寧な練習の賜物だと思います。やはり努力は嘘をつきませんね。
奨励賞までもう1歩のところまで来ていると思います。
良い方向に転べば今の実力でも取れるかもしれませんが、来年以降更に力を付けて文句なしでの受賞を狙いたいですね。
この先も、良い努力を重ねていってください。
そして大賞受賞は審査員満場一致で坂本和奏さん。
佐々木巌くんが2009年に受賞して以来8年振りの大賞受賞者です。
高校1年生という若さでの受賞者となると、いつ以来なのでしょう?
会場でも直接彼女に言いましたが、改めて本当におめでとうございます!
一昨年は「僕の主観では大賞でも良い」と感じた演奏でしたが、あと一歩及ばず。。(昨年は受験の為、オーディションを受けていません)
が、今年は壇上で満面の笑みを見せてくれました。
以前から彼女を知っている僕としては、とてもシャイで人前で話すのが苦手だった彼女がハッキリと
「人を感動させるようなギタリストになっていきたいです」と言った瞬間に、感動してしまいました(笑)
音楽だけじゃなく人間としても成長を感じさせてくれた姿が本当に眩しく頼もしかったです。
和奏ちゃん、本当におめでとう。
今後の活躍と成長を心から願い、楽しみにしています。
ゲスト演奏は古くからの友人、若手日本人ギタリストの中でもトップクラスの熊谷俊之くん。
9日に彼の演奏を聴きに行く予定なので、彼についてはまた日を改めて書きます。
一言で言うなら匠の演奏。本当に素晴らしいギタリストです。
吉住和倫
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札幌の音楽教室・マンドリン・ギタースクール
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